症状別の改善法|パニック障害

パニック障害
パニック障害という病名がWHO(世界保健機構)に登録されたのは1992年というごく最近のことです。もちろん病気そのものはその前からありましたが、それまでは不安神経症の1症例とみなされていました。
この分類自体は間違いではありませんが、アバウトな分類なだけに現在のような適切な治療を受けることは難しく、自律神経失調症や過呼吸症候群など他の病気と混同されることも少なくありませんでした。
パニック障害の何よりの特徴は、とつぜん激しい動悸やめまいなどがおきる「パニック発作」をともなうことです。患者が最初にこの発作を経験したときは生命の危険を感じるほどの強い衝撃を受けるので、救急車を要請して病院に運ばれることになります。
しかし、病院につくころには症状が治まっていて、いろいろ検査をしてもどこも悪いところがなかった、というのが通例です。このような発作を何回か経験して、それを医師に話すことでパニック障害と診断されることになります。
パニック障害は生命に関わる病気ではなく、適切な治療で完治します。しかし、治療には2~3年かかるのが普通で、中途半端な治療で放置すると慢性化して社会生活が困難になったり、うつ病を併発することがあります。
パニック障害の症状
パニック障害には「パニック障害の三大症状」といわれる、たいへん特徴的な症状があります。それは、パニック発作、予期不安、広場恐怖の3つです。
パニック発作
パニック発作は何の前触れもなく突然「動悸」「めまい」「呼吸困難」「発汗」などが起き、同時にその症状がかなり激しいものなので強い恐怖や不安におそわれます。症状は10分ほどでピークに達し、20~30分以内には治まるのが通例です。
発作の身体症状としては上記の他に、「体や手足の震え」「窒息感、喉が詰まった感じ」「胸の痛み、圧迫感」「吐き気」「失神しそうな感じ」などがあります。
それにともなう精神症状としては、自分で自分がコントロールできないことへの恐怖、発狂するのではないか、死んでしまうのではないかという不安と恐怖などがあります。
パニック発作の頻度は、初回の発作の後数日から2~3週間後に2回目の発作が起きるのが普通です。発作は前触れもなく突然起きますが、緊張した場面ではなくむしろリラックスしているときに起きることが多いのが特徴です。
2回目以降は、しだいに発作の間隔が短くなってきます。1週間に4回以上発作がある場合は重症とみなされます。
予期不安
パニック発作を何回か経験すると、いつまた発作が起きるか分らない、発作が起きたらどうしよう、という強い不安や恐怖を抱くようになります。これが「予期不安」で、予期不安によって心の緊張が高まりパニック発作を誘発するという悪循環が生じます。
パニック障害が治って発作が出なくなっても予期不安は残っていて、それが完全に消えるには長期間かかると言われています。
広場恐怖
予期不安は、以前にパニック発作を起こした場所に行くのが怖いという気持ち、そこを避けようとする行動を生みます。これが「広場恐怖」です。
広場恐怖というのは、見知らぬ人ばかりの場所で発作を起こすのが怖いとか恥ずかしいということからついた名前ですが、場所は広場には限のません。むしろ、発作が起きてもすぐに助けを呼べない電車や高速道路などの「閉鎖空間」に恐怖を覚えるケースが多いようです。
電車でも短時間でドアが開く各駅停車なら平気だが、長い時間停車しない急行には乗ることができないなどの症例がよく見られます。
パニック障害の原因
パニック障害はそれほど珍しい病気ではなく、一生のうちにこの病気を経験する人は100人に1人くらいいると言われています。しかし、その原因はよく分っていません。今のところ分っているのは、脳の神経伝達物質であるノルアドレナリンとセロトニンという2つのホルモンがパニック障害の発症に関係しているということです。
脳は神経細胞の集合体ですが、その細胞同士は一種の電気信号によって情報を交換しています。この情報交換に必要なものが脳内ホルモンと呼ばれる神経伝達物質です。脳内ホルモンは約50種類発見されていますが、そのなかで精神活動をコントローする重要な役目を担っているのが、ドーパミン、ノルアドレナリン、セロトニンの3つです。
このうちのノルアドレナリンが過剰になる、あるいはセロトニンが不足することでパニック障害が発症すると考えられています。これは、SSRIというセロトニンを増やす薬(抗うつ剤)を服用することでパニック障害の症状が改善することから分かってきたのですが、なぜ脳内ホルモンが過剰になったり不足したりするのかという仕組みはよく分っていません。
パニック障害の治療
パニック障害の治療は精神科あるいは心療内科で行ないます。治療は脳内ホルモンのバランスを回復するための抗うつ剤の薬物療法とカウンセリングなどによる心理療法の2本柱で行ないます。
パニック障害の薬物療法
パニック障害の薬物療法はSSRI(選択的セロトニン再取込阻害薬)の服用が中心になります。SSRIはうつ病のお薬として有名ですが、脳内のセロトニンを増やす作用があるのでパニック障害にも有効です。SSRIのパロキセチン(商品名パキシル)はパニック障害の治療薬として健康保険適用薬に指定されています。
SSRIは服用を始めてから効果が出るまでに2~3週間かかるので、それまでのつなぎとして即効性のある三環系抗うつ剤が使われることもあります。その他、症状によってベンゾジアゼピン系抗不安薬(デパスやエチラーム)やβ遮断薬などの抗不安薬が使われることもあります。
薬の服用方法は、発作の状況や頻度に応じて徐々に薬の量を増やしていき、発作が減ってきたら少しずつ(半年から1年くらいかけて)薬の量を減らしていきます。薬の急激な減量や中断は「中断症候群」という強い副作用を招くので非常に危険です。
パニック障害の心理療法
パニック障害の治療では心理療法も重要です。心理療法にはおもに「認知行動療法」や「自律訓練法」が取り入れられています。
認知行動療法とは、予期不安や広場恐怖をいだく思考(自動思考)には根拠がないことを納得できるように、物の受け取り方や感じ方(認知)のゆがみを正していくことです。行動療法士という専門家による面接と指導の下で行ないます。
自律訓練法は一種の自己催眠によるリラクゼーションで、専門家の指導の下にリラクゼーション効果のあるいくつかの「公式」をマスターして気分をリラックスさせます。
この他に広場恐怖の対象になっている場所に少しずつ近づいて慣れていく「暴露療法」と呼ばれる治療法もあります。
家族がパニック障害になったら
家族のだれかがパニック障害になったら、その家族に求められるのは次のようなことです。
- パニック障害は投薬などの治療で治るふつう病気だということを理解する。
- パニック発作は命には関わらないということを知って、けっしてあわてない。
- パニック障害についてできるだけ知識を持つように心がける。
- 患者への接し方は、基本的には特別に気を使わずにふつうに接する。
- 患者が1人で外出するのをこわがるようならできるだけ付き添ってやる。
- ふつうの日常生活に戻ることを急がせない
- 治療を中途半端に中断しないように注意して見守る。
パニック障害の治療には2年前後、あるいはもっと長期間かかる場合があります。患者本人はもちろんですが、家族も焦らずに病気に付き合って少しずつ治していく心構えが何より大切です。